第1章 心臓の音 1
『でもね孝ちゃん。私もうずっと前からそんなにお母さんと長くいられないってわかってたし、そこまで寂しくないんだ』
「……え」
お母さんの口癖は
“まなをこんな体に産んでしまってごめんね”
だった。
お母さんだってつらいのに
いつも私のことを一番に考えてくれて
そんなお母さんが大好きだった。
『それにねーーーーーー…』
「ん?」
多分、そんなに長くないうちに
私はまたお母さんに会えるからーーーーー…
その言葉は喉の奥で飲みこんだ。
こんなこと孝ちゃんの前で言ったら
孝ちゃんは困っちゃうからね。
『なんでもない!それより早く家に帰らなくて大丈夫なの?大会終わって疲れてないの?』
「そんなことよりまなは自分の心配だけしてなさい」
『あたっ』
孝ちゃんは私のおでこをゴツっと軽く叩いてからいつもの優しい笑顔を向けた。
「神崎さーん、目覚めましたねー?」
『あっ!山本さん!』
看護婦の山本さんが颯爽と現れて私の前まで歩いてきた。
もうここの病院に長くお世話になっているから看護婦さんの名前も覚えてしまった。
「あら、菅原くんまたきてたの?」
「あ、はい」
「もう〜この子に無理させないようにキツく言っておいてよ〜」
「ははっ、もうずっと言ってるんですけどね…」
『でもここ最近病院来なくても安定してたもん…』
「まぁ、そうね…でもちょうど精密検査しなきゃいけない時期だったし2週間は病院生活だからね」
『うへぇ〜』
山本さんはそう言って優しそうに笑った。
20代前半なのにこのドライさとルックスで瞬く間に患者を魅了している今を生きるアイドル的な存在の山本さん。