第1章 心臓の音 1
「菅原くんももう帰りなさいね」そう言って山本さんは出て行った。
『孝ちゃん』
「ん?」
『春から同じ高校だ!って浮かれてたけど入学式はデレそうもないね』
「…そうだなぁ」
窓の外から見える景色。
病棟のすぐ近くにある一本の桜の木がつぼみを丸々太らせて今にも咲きそうだった。
「大丈夫!入学式遅れてもまなならすぐ馴染めるべ!」
孝ちゃんはニカっと笑って私の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
『もうっ、髪の毛ぐしゃぐしゃにしないでよぉ〜』
「ははっ…まなの新入生代表聞きたかったなぁ」
『それやりたくなかったからちょっと安心』
「うわぁ〜よく言うよ〜主席合格しといてさ〜」
私は勉強が得意だ。
というか昔からすぐに運動制限されてしまう私は勉強でしか周りと同じような扱いはされなかった。
入院をしている間は
ずっと勉強しかしていなかったからいつの間にか周りより頭一つ賢くなっていった。
鳥野高校に進んだのは
家から近かったっていうのと孝ちゃんが俺の目の届く範囲にいてほしいからだとのこと。
中学も離婚さえしてなければ私たちは同じ中学だったけれど、別居して少し離れたマンションに住むことになって私は北川第一になってしまった。
孝ちゃんにとってはそれがすごく気に入らなかったらしい。
『ほら、孝ちゃん!もう3年生でしょ?明日も練習あるなら早く帰って体調万全にしなさい!』
「よく言うよ!じゃあ、またくるからな!」
そう言って孝ちゃんはエナメルバッグを背負って部屋を出て行った。