第1章 心臓の音 1
孝ちゃんの足元にはエナメルバッグ
そして孝ちゃんは“烏野高校排球部”と書かれた真っ黒なジャージを着ていた。
そういえば今日は大会で強豪と戦うって言っていたような…
窓から外を覗くと辺りはもう薄暗くなっていた。
この個室から見える見慣れた景色。
モノクロのように…ボヤけた景色。
「ん…まな...?」
『おはよう、孝ちゃん』
「まな...良かったぁ…」
孝ちゃんは私の顔を見るなり安心したようなふわっとした笑顔を向けた。
でもその笑顔はーーーーー…
『孝ちゃん…何かあった?』
「…えっ」
いつもより弱々しい笑顔に、
少し悲しそうな表情。
でも孝ちゃんはいつも私の前では無理して笑う。
『何か…あったんでしょ? 話なら聞くから』
「うん…まあちょっと…
でも自分で解決して見せるからさ!」
そっ…か…
そう言った私の顔はどんなだったかな?
孝ちゃんはいつもそう言って大事なことを話してくれない。