第3章 心臓の音3
西谷先輩は練習に参加したりしなかったり
自由奔放って感じだった。
あ、でもシャツには百戦錬磨って書いてある。
あんなに小さいのに元気だなぁ。
「だからよー、お前らよーサッと行ってスッとやってポンだよ。な?」
部活の片付けをしている時に西谷先輩が一年生たちにレシーブを教えているみたいだった。
私同様一年生も頭にハテナマークを浮かべていた。
西谷先輩はあれだろうか
もう反射で動いてる人なんだろうか
私がさっきボールに当たりそうになった時も離れた場所にいたはずなのに間に合っていた。
「あの…西谷さん、旭さんって誰ですか?」
ボーッとみんながレシーブしている様子を見つめているとき日向くんが質問をした。
ボーッとしていたあたしも周りの空気が変わったのがわかった。
ピリっとしたような緊張感が走ったような、そんな空気になった。
「…烏伸のエースだ。一応な」
一応という言葉を強調して西谷先輩は言った。
孝ちゃんも澤村先輩も眉間に皺を寄せていた。
“旭さん”ーーーーー…
よく孝ちゃんが試合の時の話をしてくれてた時に「苦しい場面でもエースが決めてくれるから俺も頑張れる」って言ってた。
その“エース”がどうやら今は部を離れてしまってるみたいだった。
孝ちゃんがこの前からどこか元気なかったのもそのせいなのかな?
私は何か話している日向くんたちの言葉より孝ちゃんのことが気になって、先生たちの方にいる孝ちゃんをずっと見ていた。
「けどよ、試合中会場が一番ワッと盛り上がるのはどんなすげえスパイクよりスーパーレシーブが出た時だぜ」
きっとその時の西谷先輩の顔を私は忘れないと思う。