第10章 柊
まさかとは思った。
だけど、考えてみれば殆どのつじつまが合わなくもない。
「俺が狐爪といた時はニセ及川に、あの影は女の恨み、妬み、嫉みとか……何かそんな事聞いた。
それに、あの影言ってたんだが、私からあの人を奪ったあの女だけは許さないって……なんの事だ?」
「あの人を奪った?」
澤村、菅原、縁下が顔を見合せ首を傾げる。
仮にあの影を東條小百合と仮定し、奪ったとはどういう意味だろう。
私からあの人を奪ったあの女。
それを「東條小百合から寺嶋翔を奪った瀬河聖夜」と、置き換えると意味がわからなくなる。
どうして、聖夜は翔を奪った事になるのか。
そもそも、翔と聖夜は誰が見ても仲のいい兄弟だし、ましてや及川徹という彼氏もいる。
それは青城メンバーならば知ってる事だし、烏野メンバーだって知っている。
そうなると、やはり影の正体は東條小百合ではないのかとも思えるが疑惑が完全に無くなった訳ではない。
菅原も東條小百合ではないのかと言うのは、思う所があっての発言であり、それを口にする。
「俺の時は、花畑にいた影が俺の事「スガ君」って呼んでた。
それに、憎しみがあるから影が作り出されて……お姉さんが存在してるっても言ってたし……。
ましてや、あの場には花巻もいたけど、花巻よりは俺を憎んでる口振りだった。」
「そーそー、あの言い方は明らかに爽やか君がらみだったけど?
てゆーか、爽やか君がらみなら俺マジで関係ねーんだけど。」
ホント勘弁してもらいてー、とため息をつく花巻に対して、澤村が引っ掛かったのは影の菅原に対するスガ君呼び。
果たして殺そうとしてる正体不明の恐ろしい奴がスガ君なんて呼ぶだろうか。
それに、澤村の記憶上、スガ君と呼ぶ友人はクラスの女子数名と東條しか思い当たらないし、そのスガ君呼びの女子にしたって、今いるメンバー全員と関わりはない。
あったとしても、及川のファンであったり、中学時代同じクラスだったとかで知っているであろう岩泉や花巻、松川辺りで、音駒や梟谷は知らないはずだ。
全力で殺そうとする理由も無ければ接点すらないだろう。
そうなると、やはり消去法で東條小百合ひとりが候補に上がってしまった。
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