第10章 柊
「本名は東條小百合。
俺らと同じ、烏野の3年で翔の彼女だよ。
けど、東條があんな恐ろしい影な訳ないだろう……翔が失踪して一番傷付いてるのは東條だ。
翔が失踪してからショックで学校にも来てなかったし……」
だから東條だとは考え難いと、澤村が言う。
菅原も澤村に、「だよなー、どうかしてた」と苦笑した。
きっと、この極限の恐怖の中で思考がまともな考えを邪魔しているのだろうと、菅原が自分の中で納得させる。
が、ただひとり岩泉はどうにも何かが腑に落ちないようで、口元に手を当て、眉間に皺を寄せ何かを考えた後、口を開いた。
「澤村……その東條って奴はどんな奴なんだ?」
「どんなって言うと?」
「性格とか、見た感じの印象とか……」
「んー……性格は基本的に大人しいな。
結構無口って言うか……けど、話してみればそうでもないし、いい子だぞ?」
「そうそう、よく翔の練習見に来てたしな。
だから、結構うちの部員とは仲がいいし、東條もよく翔に色んな人の事聞いてたから、少なくともここにいるメンバーの事は幾らか知って…………」
何かに気が付いた菅原の顔がサッと青ざめた。
こ こ に い る メ ン バ ー の 事 は 知 っ て い る 。
その言葉が意味する事は何か。
この奇妙な世界に集められたメンバーの全ての共通点になる。
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