第13章 クワ
「折角...ヒカリが頑張って成長したのにね...再生もいつの間にか早くなっててビックリした。」
田中が意識を飛ばしたと同時に、折れた桑の木の側に柊が音もなく表れ、その場にしゃがみ地面に落ちた黒いクワの実をひとつ手に取りそのまま自分の口に運びパクりと食べる。
「柊、女の子がはしたないよ...それに汚ない。」
呆れたように軽く溜め息をつくヒカリに、柊はただ無表情にヒカリを見上げる。
「...汚くない...それに...ヒカリはこのふたりに食べてもらいたかったからあえてあいつに協力したんでしょ?」
「...なんでもお見通しか。」
「だけど、ヒカリの実を食べれないのは可哀想...こんなに美味しいのに...」
「仕方ないだろう、食べてもらう前にあいつが来ちゃったんだ。」
「...木の実...少し貰うね。」
「え?」
柊の言葉にヒカリはキョトンと目を丸くする。
そんなヒカリに構わず、柊はワンピースの裾の部分を摘まみ、地面に着いていない実を拾いながらスカートに幾らか溜めていく。
「向こうでこの子達に食べて貰うの。」
ダメ?と柊が首を傾げると、ヒカリは困ったように笑い、「お願いするよ」と言い残し音もなく姿を消した。
柊は折れた桑の木を見つめたまま、またひとつ木の実を口に含む。
「私も...もうすぐヒカリ達と同じ所に行くから、待ってて。」
あなた達を決してひとりにはさせないから...
だから、今は私のやるべき事を終わらせないと...
*NEXT*
花言葉:クワ【ともに死のう】