第10章 柊
「あの時、かづきさん……事故で亡くなった俺の彼女が影に言ってたんです。
「どうして、あの人を殺さなきゃいけなかったの」って……それって、誰かが既にあの影に殺されてるって事ですよね?」
僕たちの知ってる誰かが。
そして……可能性として高い人物はあの人しか考えられない。
行方不明になっている……寺嶋翔。
どうなんだと、赤葦が女の子に視線で問い掛けるが、女の子は黙ったまま。
特別表情は変わらないが、何を考えているのか読み取りづらい。
「……今はまだ……伝える事は出来ない。」
ごめんなさい……と女の子が告げるも、多分翔は既に殺されているのであろうことは何となく皆思ったが、まだ確かな確証がない為に皆は口にする事は無かった。
そして、その事でふと、菅原もある事を思い出す。
「そう言えば……あの影……」
「スガ?」
「考え難い事なんだけどさ……あの影も俺達の知ってる人じゃないかって思ったんだけど……」
「なっ!」
今度は菅原の発言に、皆はそちらに注目した。
「いやいやいや、ちょっと待て。
お前冗談にも限度があるだろう。
あんな恐ろしいもの、俺達の知り合いにいてたまるか。」
質の悪い冗談はよせ、と澤村が言えば、それまで黙って話を聞いていた縁下がおずおずと菅原に話し掛ける。
「もしかして……それって、小百合さんの事ですか?」
「?」
縁下の出した名前に、烏野以外のメンバーが首を傾げた。
他校の岩泉達にとっては、小百合は初めて聞く名前なのだ。
「小百合って?」
松川が聞けば、澤村が簡単に知らない人の為に説明してくれた。
*