第10章 柊
今度は花巻が質問した。
恐らく、名前を聞けば誰の関係者かわかるだろうとでも思ったのではないのだろうか。
皆が女の子に注目し、女の子が口を開く。
「_____。」
「?」
女の子は口を開くも声は聞こえなかった。
「なんだって?」
花巻が眉を寄せ、皆も同じく眉を寄せる。
皆に女の子の声は聞こえなかった。
「それでいいの。
もし、気付く以外であなた達が私の名前を聞き取れたら……」
その人はもう、死んでいるのだから。
ゾクッと、女の子の言葉に悪寒が走った。
「私は生きているけど、あなた達とは全く別の存在で、生きている時間も違う。
だから、今この瞬間も時間は同じようで違うものなの。
それなのに、私の名前を聞き取れたらそれは……違う時間を生きる存在になる。」
だから、あなた達はまだちゃんと生きている。
「それに、多分心当たりある人はあるんじゃない?
私以外に名前が聞こえなかった時はあったと思うけど。」
女の子に言われて何人か、ハッとある事を思い出す。
岩泉は、体育館で影に襲われた時に間一髪で助けてくれた及川であって及川ではないものに聞いた影の正体。
その時、影の名前は聞こえなかった。
菅原と花巻はリンドウが沢山咲き誇る花畑で、女性が口にした誰かの名前。
縁下と松川は迷路で出会った女性が誰かの名前を口にしていた。
それよりも……
「誰かがひとり……確実に死んでますよね?」
赤葦が福寿草の中での出来事を思い出し、女の子を見ながらそんな事を言った。
皆は視線を女の子から赤葦へと移す。
*