第9章 福寿草
藤本かづき……
梟谷学園の生徒で1年くらい前に事故にあって亡くなった赤葦京治の恋人。
付き合ったのは1年生の時、初夏の頃。
校舎の花壇の花達に欠かさず水をあげている姿を見るうちに気になり、何気無く赤葦が声を掛けてからよく話すようになって、交際するまでになったのだ。
園芸部にいるだけあって、花の事は凄い詳しかった。
中でも彼女は福寿草が好きだと、嬉しそうに話していたのを覚えている。
彼女が好きな花ならば一度実物を見てみたいと言った。
だけど、福寿草は初春の花であり、夏には枯れてしまう花だ。
だから、来年の春先一緒に見に行こうと約束をして、代わりにその年、彼女が作った福寿草の花びらが入った手作りのキーホルダーを貰った。
そして、翌年の春……
彼女と福寿草を見に行こうと約束した日……
待ち合わせ場所に向かうと彼女はいなく……
代わりに同級生から赤葦の携帯に電話が一本……
彼女が交通事故にあったという電話……
俺のせいで、彼女は死んでしまった。
俺が彼女に話し掛けなければ……
俺が彼女と約束をしなければ……
彼女は今も生きていたかもしれない……
俺が彼女を殺したんだ。
「思い出した……」
全部思い出した。
あの子は俺の大切な人。
だけど、死んだなんて受け入れられなくてすぐに俺の記憶から彼女の記憶を消したんだ。
全部、彼女との想い出を無かった事にしたんだ。
*