第9章 福寿草
「ねぇ、京治君、本当に大丈夫なの?
また今度にした方が……」
少し困ったように眉を寄せながら隣を歩く女の子。
赤葦は大丈夫ですよと笑いかければ、女の子はきっとこれ以上言ってもきっと同じ事の繰り返しだと判断したのか、「わかった」と、それっきり「大丈夫なの?」と言う言葉は言わないようになった。
そこから2人は会話も無く、黙って静かな住宅街を歩いて行く。
ただ、赤葦は未だに今の現状を把握出来ないでいた。
隣を歩く女の子は一体誰なのだろうか。
梟谷学園の制服を着ているし、赤葦を「京治君」と呼ぶから多分、学年は一緒なのだろうと思う。
だけど、赤葦はこの子の事を全く知らない。
今一緒に歩いているのは、女の子から「今日約束したでしょ?」と言われたから、一緒にいる訳で約束自体は何の事なのか全くわからなかった。
ただ、何となくだが女の子の言う「約束」に着いていけば何かを思い出しそうな気がしたのでついて行ってるのだ。
「あの……どこに向かってるの?」
歩き始めて1時間くらい経とうとし、さすがに住宅街からはどんどん離れて行き、ついには殺風景などこかの小さな山のような自然公園みたいな場所に足を運んでいた。
ここまで来れば赤葦も一体どこへ向かっているのか気になり始め女の子に聞けば、悪戯っぽく笑い人差し指を自分の口元に当てた。
「目的地まで内緒だよ?」
「じゃあ、その目的地まであとどのくらい?」
「もう少し、あそこを登れば目的地だよ。」
女の子の指差した方は土手のような場所で、階段が数段備え付けられていた。
「……。」
瞬間、赤葦に嫌な予感が走り思わず足を動かすのを止め、ピタリとその場に立ち止まった。
きっとあの階段を登れば求めていた答えは全て見つかる。
だけど、それと同時に行ったら思い出したくない事を思い出しそうな気がした。
赤葦が行くのを躊躇っていると、右手を何かに包み込まれた気がして目を向ける。
すると、視界に入ってきたのは自分の右手を両手で包み込む女の子の自分より一回り小さな手だった。
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