第9章 福寿草
「っ!」
一瞬、ひとりの女の子が赤葦の頭の中に浮かんだ。
顔はボンヤリしてたものの、口元は幸せそうに弧を描いて笑っていた。
あの女の子は一体誰なのだろう。
思い出せないモヤモヤした気持ちに焦れ、心臓部分のジャージを握り締め、逆の手で髪の毛をクシャリと握る。
だけど、思い出そうとするほど自分の中で何かが消えかかりそうな気がしてならない。
そもそも……
「俺は何でこんな霧の深い場所にひとりで?」
ゆっくり辺りを見回しながら不思議そうに首を傾げた。
霧深い場所にいるのもそうだが、元々どうしてこんな場所にいるのだろうと、少し前の自分を思い出しても経緯が思い出せない。
どうしたものかと、冷静に思考を巡らせ口元に手を当てる。
「どこか具合悪いの?」
「え?」
背後から聞こえた気づかう声に赤葦はゆっくり体を後ろに向けた。
そこにはポニーテールが特徴的な女の子が心配そうに赤葦を覗き込むように見ている。
驚いて瞬きすれば、女の子は「平気?」と問い掛けて来た。
「あの……」
「もし、体調悪いんだったら、別の日にする?」
無理はしないでね、と女の子が悲しそうに笑った。
*