第6章 勿忘草
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その場の空気が一瞬にして凍った。
何かを伝える為に男の子が口を開き、黒尾に手を伸ばせば、それを遮るかのように容赦なく影が男の子の首を切りつける。
小さい頭はゴトリと黒尾の足元に落ち、行き場を無くした体はその場に崩れ、動かなくなった。
そんな光景があの時の女の子と重なり、2人は嫌な吐き気に襲われ、口を抑える。
出血はしていないものの、ついさっきまで当たり前のように動いて話して……助けてくれた子だ。
人ではないと知りつつもやはり目の前でこんな事になってしまうと嫌悪感はあるものだ。
「あんたがわたしの邪魔してたのね……ガキの分際で生意気なのよ。」
影はチッと舌打ちすると、鬱憤を晴らすかのように目の前に転がる小さい体を思い切り蹴ってやる。
体はゴロゴロと転がり、少し離れた所で埃まみれになりながらピタリと止まる。
扱いからするに影の仲間でもなんでもないのはわかるが、こいつは一体どこまで非道な性格をしているのか。
若しくは心は持ち合わせていないというのも考えられる。
影は無造作に転がる体を嘲笑うかのように鼻で笑えば、次はお前達の番だと言わんばかりに顔が2人に向けられ、ザリッと音を立てて近寄ってきた。
直感的にこのままだと殺されると感じるものの、体がうまく動かない。
「やべーぞ、このままだと殺されるのは間違いねぇ……」
「つっても、どこに逃げろってんだよ。」
左右に逃げようにも隠れる場所はないし、後ろは大きな木に道を塞がれている。
どこからどう見ても絶体絶命だ。
どうする、と打開策を必死で頭の中で考えていると黒尾の耳にボソボソと何かが聞こえてきた。
何だ?と視線だけを巡らせ、聞こえて来るものに神経を集中させると、それは下から聞こえてくる。
僅かに頭を下に下げ見てみれば、影からは死角になるように黒尾の方に向いた頭が視線だけ黒尾を見ながら何かを伝えるようにボソボソと何かを呟いていた。
影に悟られないように、黒尾が男の子の頭に耳を寄せる。
(後ろの……花……潰して……)
「……?」
後ろの花?
後ろの花と言えば、墓の上にある青い花しかない。
これを潰せって言うのだろうか。
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