第6章 勿忘草
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「黒尾?どしたよ、そいつ。」
合宿の休憩時間、たまたま体育館の隅にひとり座り込む黒尾を見付けた翔が近寄ってみれば、どこから来たのか黒猫と戯れていた。
真っ黒な色に金色の瞳、大きさから見て黒尾の手に多少余るくらいに見えるから多分子供だろう。
警戒心がないのか、はたまた黒尾が手懐けたのか、猫は仰向けになりながらじゃれるように黒尾にお腹を気持ち良さそうに撫でて貰っていた。
「一昨日この場所でこいつを見付けたんだよ。
まだちっこいし、腹減ってたみたいだし、ミルクやったらこの通り。」
すっかりなついてさ、とケラケラ笑う黒尾に翔がため息をついた。
「この通りって、お前なぁ……合宿終わったらどうすんだ?まさか他所の学校で飼うわけにいかねぇだろ。」
かと言って、他所の学校でなくとも飼うわけにはいかないが……
「まぁ、里親探すしかないだろうな。
っつーか、翔はセッター飼えねぇの?」
「俺んとこは父さんが猫アレル…………何、セッターって……」
話の途中でん?と眉を寄せ、今なんてった?と怪訝に黒尾を見れば、黒尾はニヤリと笑い、仰向けになっていた黒猫を抱き上げズズイと翔の目の前に突きつける。
「こいつの名前、セッターにしたんだ。」
いいだろ?と得意気の黒尾に、翔は口をひくつかせた。
「は?セッターってお前……」
ネーミングセンスどうよ。
ダメだろ。
いや、まぁ、幼なじみに対して心臓扱いしてる時点であれではあるが、それにしたって猫の名前がセッターって……飼えもしない猫に名前つけるなって文句よりもネーミングセンスに抗議したい。
「……何でそうなった。」
「何でって……そりゃあ………………」
「俺がミドルブロッカーだし、いずれこいつともバレーしたいからに決まってんじゃん?」
理由なんてそんなもんだ。
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