第6章 勿忘草
(潰して…………僕を…………思い出してくれたから…………僕は大丈夫…………)
だから……
早くしないと……
お兄ちゃん達も……
翔お兄ちゃんみたいになるよ……
「お前、翔がどこにいんのかわかるのか!!」
「っ!!」
「!!」
男の子の口から出た言葉に思わず黒尾が叫ぶ。
ヤベッと思った時にはもう遅く、影が黒尾に向かって鉈を振りかざす所で、持ち前の反射神経で降り下ろされた鉈を交わすも、変わりに男の子の頭が潰された。
「黒尾!!」
澤村が叫んでも影は目もくれず、今の標的は完全に黒尾に絞られてるようだった。
「余計な事……喋るんじゃないよ……ガキ……」
フード越しに黒尾を睨み付け、再び鉈が振りかざされる。
今度こそ降り下ろされたら確実に殺されるであろう事を直感で黒尾は感じ、拳を握り締めるとそのまま腕に力を入れ後ろに下がり、何とか立ち上がりチラリと花の位置を確認した。
何をやろうとしてるのか完全に気付いた影はやらせまいと素早く鉈を再び振りかざし黒尾を狙う。
「黒尾!!」
澤村が叫び、黒尾の数センチ近くまで鉈が迫ると澤村はギュッと目を瞑る。
数秒経った所でゆっくり目を開ければ、影の姿は跡形もなく消えており、後には脱力して座り込む黒尾と無惨な姿になった青い花。
助かったのか、と2人が顔を見合わせればそのまま気が抜け意識を手離した。
後に残るのは澤村と黒尾。
頭のない小さな体。
その小さな体の側に、いつの間にか女の子は佇んでいた。
地面に膝を着くと、そっと男の子の背中に触れる。
「守ってくれてありがとう。」
お休みなさい、と言えば体はスッと音もなく消えてしまう。
「あなたはお花にならずにすんだから、きっとこれからはあの人達の中で消える事がない。」
そして、次は人間に生まれてあの人達と出会うといいわ。
(僕もお兄ちゃん達を守りたいんだ。)
あの時の男の子の顔が、女の子の脳裏に浮かんで消えた。
全てが終わった時、私は誰かの記憶に残るだろうか。
ほんの一瞬、女の子の顔が悲しみに歪んだ。
*NEXT*
花言葉:勿忘草【私を忘れないで】