第6章 勿忘草
(登って。)
「え?」
(早くアイツらが来ないうちにこの木に登って。)
でないとアイツらに連れてかれちゃうよ!!と男の子が切羽詰まった様子で催促すれば、言われるがまま2人は男の子の後に続いて桜の木によじ登った。
木登りなんて何年振りだろうか、一番近くの太い枝まで登りきってから一先ず安堵のため息をつく。
しかし、これで助かったとは思えないし、これは一時的な避難にしか過ぎない。
とは言え、一時的でも助かった事に変わりはないのでひとつ高い枝に座る男の子を見上げながら、澤村は「ありがとな」と、お礼を言えば男の子は嬉しそうに目を細め微笑んだ。
「しっかし、あれは一体何なんだ?」
澤村の隣に伸びる枝に座りながら、木にもたれ掛かる黒尾はイライラした様子で頭をガシガシ掻いた。
(あれは……忘れられた未練の塊だよ。)
黒尾の疑問に応えたのは男の子。
イマイチ意味が理解出来ず、2人が揃って男の子を見れば、男の子はほら……と無表情に地面を指差す。
「「!!」」
つられてそのまま、男の子の差した方にゆっくり視線を移し、2人は息を飲んだ。
さっきまで沢山あった白い手はどこにもなく、変わりに地面には色鮮やかな可愛らしい青い花が沢山咲き誇っているではないか。
何かの視間違いかと目を擦り、再度地面を確認しても景色は変わらず花畑。
(あの腕は、勿忘草に宿ったモノなんだ。)
「勿忘草?」
なんだそれと、黒尾が男の子を見る。
(地面に咲いてるお花の名前だよ。
お兄ちゃん達3人が名前の次に僕にくれたものだよ。)
「「っ!!」」
覚えてない?と男の子が言ったのと同時に声が出せない程の激痛を頭に受けた。
今まで感じた事のない痛み。
例えるなら頭の中で何かが暴れているような感覚だ。
木の幹に爪を立て、少しでも痛みを紛らわそうとするも効果はなく、2人はその場に気を失ってしまった。
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