第6章 勿忘草
さすがの澤村もこれには思考が止まった。
通常ではありえない地面から生える手。
その手はしっかりと黒尾の足首を掴んで離さない。
「なんだよこの手!!
死体でも埋まってんのか!!」
黒尾がなんとか手から足を振りほどき、素早く立ち上がると手から距離を取ってそこである事に気が付いた。
いつの間にか数えきれない数の手が2人を取り囲んでいたのだ。
「絶対絶命ってヤツだな。」
「おいおい、勘弁しろよ。
せめてオレンジコートでお前らと試合しねぇ事には死んでも死にきれねぇかんな。」
せっかく、夏合宿だってやったのにそれが全部無意味になっちまうじゃねぇかと、黒尾がブツブツ小言を言い出した。
確かに、ここで死んだら合宿は無意味になるかもしれないが、人生命があってこそだ。
今助かるならば、合宿の無駄なんて気にも止めないだろう。
にしても……
「ホント……なんだ、コイツら……」
見れば見るほど気味が悪い。
その場で止まってるだけならまだしも、気のせいかジリジリ距離を詰めて迫って来ている。
一瞬、死体でも埋まってるのかと思いきや、移動すると言うことは死体ではないのは明白だ。
だからと言って打開策が出来た訳でもないのだが……。
(お兄ちゃん、こっち。)
幼い男の子の声と共に、澤村と黒尾の手首は何かに掴まれ、考える暇もないまま力任せに引っ張られてしまう。
足が縺れそうになりながらも男の子に引っ張られるまま、そちらへ足を運べば、近くの桜の木の下でピタリと止まり、そこで初めて男の子が2人に振り向く。
その子はさっき暗闇の中で澤村と会い、いきなり顔がドロリと溶けたハズの男の子だった。
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