第5章 リンドウ
「貴方達、ここにはどうやって来たの?」
女性が不審者でもみるような眼差しで問い掛けてくる。
まぁ、よく考えてもみれば、妙な世界に正常な何もない至って普通の人がいればそれはそれで不審者にもなるのかもしれない。
「どうって言われても……俺達、気付いたらここにって状態で逆にどうやって来て、ついでにどうやって帰ればいいのか聞きたいんですけど。」
悪魔でも冷静に対応する花巻に菅原は感心を覚えた。
何故驚きもせず普通に対応出来るんだこいつは。
怖いもの無しか。
「気付いたら……?
……もしかして_____から連れて来られたの?」
「「?」」
女性の質問に首を傾げた。
声が聞こえない。
菅原が誰のせいでこうなってるかわかるんですか?と聞けば、女性は軽く眉を寄せた。
「……貴方達に_____の名前が聞こえないのね。」
「「……。」」
この人はなんの事を言っているのだろうか。
女性は少し考えた素振りを見せると、何かの気配に気付き、ハッと後ろを振り向きポツリと呟く。
「……来る……。」
「来る?」
一体、何が……と聞く前に、女性は2人を匿うように前に立ちはだかった。
「いぃ?今から何があっても声を出さないで。
私から前に出ちゃダメだからね?」
でないと……殺されるから……。
女性の底知れぬ威圧感が2人に有無を言わせず黙らせる。
すると、すぐにズルリズルリと不快な音が耳に届き、言われた通り声を出してしまわないように、慌てて自分の口を手で塞いだ。
忘れたくても忘れられない恐怖が始まった最初の音。
ソッと女性の背後から顔を覗かせて見ると、女性のすぐ目の前には例の影が立っていた。
初めて見た時と変わらず、黒いマントを着て深く被った帽子からは不気味な口許しか見えず、また右手には鉈を持っている。
唯一違う所と言えば最初に持っていた花を左手に持っておらず、それどころか今は何も持っていないようだった。
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