第4章 マリーゴールド
「ねぇ、早くプリン君と寝癖君も試合しようよー。」
「は?」
一触即発。
まさにそんな空気だったのに場違いなテンションに台無しにされた瞬間だった。
誰がプリン君だと、半ばイラッとしながら声の出所に目を向けると、ヘラヘラと胡散臭さ満天の及川の笑顔に不思議と不快感がます。
現在進行形の不安と恐怖とが混ざりあってよくわからない感情になっているのかと思われる。
「本物にしろ偽物にしろ、こいつは元々こんな性格だ。」
研磨の心境を察したのか、岩泉がこれでもかと言わんばかりの不機嫌全開の顔で言い放つ。
冷静になろう。
どうして、研磨は今トスを上げているのか。
どうして、研磨のトスをクロがスパイクしているのか。
どうして、ネットを挟んだ向かい側で岩泉さんがブロックしているのか。
答えは簡単。
研磨と黒尾、岩泉と及川に別れてゲームをしているから。
ちょうど1試合が終わった所で4人は床に座り込んだ。
「なーんか新鮮だよねー、このメンツで試合とか。」
「たまにはおもしれーだろ。」
「てゆーか、プリン君もセッターとしてなかなか優秀じゃない?」
「そりゃあ、研磨は俺達の背骨で脳で心臓ですから。」
「何それ凄い受ける!!」
ワイワイ盛り上がる青葉城西と音駒の主将組。
それを研磨と岩泉は腑に落ちない表情で見守っている。
偽物も心臓って言ってるし……ほんと辞めてくれないかな……。
研磨は眉を寄せると両手を眺めながら開いて握ってを繰り返した。
「どうした?」
「……あのクロ……本物じゃないってわかってるのに、バレーした感じが本物と全く同じだった。」
なんだか気持ち悪くて……と言えば、岩泉も同じだったらしく俺もだわ、と呟く。
本物ではないのに、やたらしっくりくるトスが凄い気持ち悪かった。
ましてやお互いに長年の幼なじみ故に、バレーをやる感覚は自然と体に馴染んでいる。
だからこそ気持ち悪い。
初めての相手ならば癖があったり、苦手な事が少なからず1つはあるだろう、それが黒尾と及川にはなかった。
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