第12章 ウシノシタクサ
何がおきたのか把握するまで時間が掛かった。
男の子が見上げていた絵からいきなりズルリと立体的に黒い物が飛び出し、ヒラリとした黒く揺れる布が男の子の姿を一瞬スッポリと隠す。
翌々見てみれば、黒く揺れる布は今この恐怖を作り上げている影のマントで、影はすぐに日向達に向き直ると、ヒタリと一歩近付き、それに比例して三人は一歩下がって距離をおく。
本来ならば絵画から何か出てきた時点で驚くべきなのだろうが、その前に色々非科学的な事を見てきている為、それよりも、影と今真正面に対立しているということが問題だった。
きっと、このままだと殺される。
逃げるにしろどこに逃げればいいのかも思い浮かばず、何も出来ないもどかしさに無意識に東峰は舌打ちをした。
「なんか、ヤバいっスね、この状況。
どうします?逃げます?」
「逃げたいのは山々だが、こんな廊下で逃げてもどっから何が出てくるかわかったもんじゃないだろう。」
現に日向が色んな罠みたいなヤツの餌食になっているのだから。
「ねぇ......」
「!」
影のしゃがれたような声が三人の耳に届いた。
再び視線をやれば目深く被ったマントの帽子から口元だけを除かせて、その形をゆっくり変えていく。
「何を信じてここまで来たの。」
「え......?」
「何を信じてここまで来たの。」
呆然とする三人に同じ質問を繰り返す。
それに答えたのは日向。
「何って......その男の子を信じてに決まってる!」
悪いかコラ!と悪態をつくも、それは日向の強がりでしかなく、ファイティングポーズをとる姿は小刻みに震えている。
「それじゃあ、この子が例えば人じゃないって知っても、この子を信じてついて来れる?」
影の言葉にピクリと反応したのは日向達ではなく男の子。
影の背後に隠れるようゆ姿を消していた男の子が影の前に回り、そのマントを両手で引っ張るようにわし掴んだ。
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