第11章 番外編 オトギリソウ
そして、小百合は体育館には不釣り合いな存在に気が付いた。
ステージの隅に飾られた花。
近付いて見れば、些か枯れかけてはいるものの、まだ綺麗に咲いている。
きっと、この場に飾った人が毎日こまめに水を変えているのだろう。
忌々しげに舌打ちをし、花を捨てようと手を伸ばすと同時に、カタンと、扉の所で音がした。
反射的に振り向けば、そこにいたのは……
「武田先生?」
どうしてここにいるのかと、キョトンと、小百合は目を丸くした。
同じく、武田先生も誰もいない体育館を前提に来たので、生徒がいた事に「え?」っと、目を丸くする。
「君は確か3年の……」
「東條小百合です。」
「あぁ、やっぱり。
寺嶋君の疾走から体調崩して休んでたんですよね?
大丈夫ですか?ちょっと窶れてないですか?」
小百合を心配しながら眉を寄せ、顔色を伺う先生は本当にお人好しだなと思った。
「はい、大丈夫です。
ご心配お掛けしてすいません。」
「彼氏さんが疾走すると言うのは辛いですからね。
あまり無理はしちゃいけませんよ?」
あくまで小百合を気遣う武田先生に、ありがとうございますと頭を下げる。
「所で……今は授業中ですが、東條さんはどうしてここへ?」
「あ……いや……体調がすぐれず、保健室に行こうとしたんですけど、気付いたら体育館に足を運んでしまっていて……。
そしたら、この花を見付けたんです。」
この花は?と小百合が聞けば、武田先生はそうだったんですね、と相槌を打ってから綺麗でしょう?とニッコリ笑った。
「その花ね、ペンタスって言うんですよ。
一週間前に瀬河さんのお母様が持って来てくれたんです。
早く皆が見付かりますようにって願いを込めて。」
「皆……?」
小百合は敢えて知らない振りをする。
教室でもクラスの友達が小百合の休んでる間の事を教えてくれたが、その時も「そうなんだ」と、知らない振りをした。
だって、私は全てを知っているから。
*