第11章 番外編 オトギリソウ
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寺嶋翔が疾走してから2ヶ月と2週間。
それまでショックで体調を崩していた東條小百合が久々に学校へ登校して来た。
教室へ入ったら、クラスの皆は驚いた顔をしてそれぞれ小百合に声を掛けてくる。
「大丈夫?」「もう、学校へ来て大丈夫なの?」「少し窶れてない?」「無理だけはしないでね?」暖かい言葉をかけてくれる皆に笑顔で応えながら、小百合の気持ちは暗いまま。
欲しい者は手に入れた。
邪魔な者は今はいない。
それなのに、どうしてだろう、何が足りないのだろう。
一体私は何が不満なのか 。
わからない。
2限目が終わってから、小百合は体調がすぐれないと、先生に言い、教室を抜け出した。
友達は着いていこうか?と言ってくれたが、ひとりで大丈夫だと教室を出る。
小百合は保健室へは行かず、足は男子バレー部の第3体育館へと進んで行く。
部活以外では滅多に使われない体育館は、冷たく重い扉を開ければ当然誰もいない。
小百合は黙って誰もいない体育館に一歩踏み出した。
キュッと小さなスキール音が静かな体育館には大きく響く。
『小百合、見に来たんだな。』
人懐っこい顔が小百合の脳裏に浮かぶ。
小百合が好きで好きで仕方のない人。
彼といると心が暖かくなる。
彼といるだけで幸せな気持ちになる。
その気持ちは日を増すにつれ大きくなり、やがては独占欲に変わってしまう。
彼が誰かに笑いかけているだけで不安になる。
彼が誰かと話しているだけで嫉妬してしまう。
やがてそれは
恨みに変わる。
*