第2章 睡蓮
「部室で着替えて体育館行ったら、誰が置いたかとかは知らねーけど、真っ黒なんだけど綺麗に咲いた不気味なユリの花が置いてあったんだ。
翌々考えてみれば、そっからの記憶が曖昧だな……ってゆーか、そっからの記憶がない。」
気が付いたらこの教室にいた、と夜久が全てを思い出す。
「夜久さん……それが、クロユリですよ……。」
「真っ黒だったけど枯れてはないんだよな。」
「クロユリは名前の通りに真っ黒な花なんです……。
枯れてる訳じゃなくて、ホントに真っ黒なユリの花......。」
そうなんだ、と夜久が相槌を打ち、及川はさっきとは打って変わって様子のおかしい聖夜にどうしたの?と安心させる意味も含めてギュッと手を握ってやると、え……と、聖夜を見る。
何故か聖夜の手は血の気が引いたように冷たくなっていた。
寒い?と聞けば、無言で頭を横に振り、握られている手をギュッと握り返し、口を開く。
「嫌な予感がする。」
「嫌な予感?」
「……夜久さんの話を聞いて、私も思い出したの……」
「何を?」
「私が覚えてるのは、お店のお手伝いしてた事。
記憶が途切れたのは、クロユリの花を買いに来たお客さんで、渡した瞬間何故か知らない学校の前に立っていた。
眠かった訳でもないし、本当に気付いたら学校の前にいて……それから、その前の過程を思い出してる時に、凄く痛い頭痛に襲われて……次に目を覚ましたら徹君と夜久さんと、この教室にいたの。」
そこまで話してから聖夜は一拍置き、一度深呼吸してゆっくり口を開く。
「それにね……嫌な予感がするって言うのは……クロユリの花言葉……」
わかる?と及川と夜久を見ればどちらとも頭を横に振る。
何なの?と及川が尋ねれば、聖夜は躊躇ってから重い口を開いた。
「クロユリの花言葉は……」
呪い。
2人を凍り付かせるには十分な言葉だった。
*