第1章 3月9日~及川徹~
式は着々と進んだ。
退場の時、泣いている「あなた」の顔が見えた。
いつも笑顔な「あなた」の顔に光る一筋の雫。
それを見て、俺も泣きそうになる。
慌てて外を見ると、校庭につむじ風が舞っていた。
砂埃を巻き上げながら進むそれは、強くたくましく思う。
そんな校庭の空には、白い月が浮かんでいた。
ぽっかりと、青い空に穴を開けるように浮かんでいた。
それに思わず見とれていると、背中に衝撃が走る。
「いったぁ!?ちょっとだれ?及川さんにぶつかったのは!」
そんなことを言いながら、俺は振り返る。
「私ですー、はやく進んでください及川さん」
そこには、目を赤く腫らした「あなた」の姿があった。
泣いているのに、それなのに
とても綺麗で、また見とれてしまった。
不思議そうに首を傾げる「あなた」の頭を、照れ隠しのためにかるく小突き、文句を言う「あなた」を無視して自分の教室へと戻る。
赤く染まった俺の顔。
「あなた」に見られただろうか。