第1章 3月9日~及川徹~
3月9日
今日は俺の通っている青葉城西の卒業式。
いつもと同じように「あなた」と並んで登校する。
『もう卒業ですよ、及川くん』
「なにその、及川くんって。気持ちわるい」
『えー!てか、三年間早かったねー。シュンって終わったよ、シュンって!!』
いつも通りの「あなた」を横目で見ながら、俺は小さくため息をついた。
それに気づくと、頬を膨らます。
『なに!?子供っぽいって呆れたの?』
「そんなんじゃないけど、なんか、元気だなって」
『だって最後だよ?徹と登校するのも、この制服着るのも』
これが最後。
そう言った「あなた」はほんの少しだけ顔を曇らす。
それに気づかないフリをして、俺は桜の木を見上げた。
まだ桜には早いのだろう。蕾がついているだけ。
これが花開く頃には、「あなた」はもうここにはいない。
ただの幼馴染の俺たち。
俺は「あなた」が好きだった。
ずっとずっと、好きだった。
『ふぁ…』
大きなあくびをした「あなた」は、少し照れながら俺の横に立つ。
『行かないの?』
袖を引く小さな手。
『先に行くよ?』
どこに?
きっと「あなた」は、俺を置いて新しい世界で、新しい友達を作り、俺のことを忘れてしまうのだろう。
俺は忘れないよ。
今でも、瞳を閉じれば「あなた」の笑顔が、
泣き顔が、怒った顔が
次々と浮かんでくる。
それだけで
たったそれだけで
俺がどれだか救われたのか、「あなた」は知らない。
「あなた」にとって俺は、いったいどんな存在ですか?
ただの幼馴染?
…俺と同じように想っていてくれないだろうか。