第1章 Prorogue
「一樹くん、おはよう!」
翌朝。
下駄箱で一樹と出くわしたまどかは、笑顔で、それでいてなるべく自然に挨拶した。
良い関係は、良い挨拶から。
まどかの持論である。
「……ああ、おはよ」
しかし一樹は、靴を履き替えながら彼女を一瞥もしない。
(……んん?)
まどかは、拍子抜けして一樹を見つめた。
怪訝な表情の彼と目が合う。
「……なに見てんの」
「え、えっ、あ、ごめん!」
睨まれたのかと思い、声が上ずった。
いつもこの後に天気とか世間話を振るが、そんなことができないような威圧感みたいなものが彼にはあった。
そして一樹はまどかの目の前をさっさと通りすぎて階段を登っていってしまった。
「なにこれ…」
挨拶のあとに会話が続かないことは、まどかにとって初めてだった。
しかも、自分が声をかければ誰もが嬉しそうに振り返ってくれるのに、彼はそんな素振りを見せなかった。
(…なんで嬉しそうにしないの‼)
無性に腹が立ったまどかは、下駄箱の扉を思いっきり閉めた。