第2章 翻弄
「あんた、人のことオトせるくせにオトされたことないらしいね」
一樹が言った。
(何それ…そんな風に噂にされてるの?!)
「俺、その一人目になるわ」
「な、なに言ってんの…そんなこと堂々と宣言して私が落ちるわけ──」
「ある」
そうなるのが当然、とでも言わんばかりの口調。
「なっ…」
「うん、やっぱりこっちの方が断然面白いじゃん」
ククッと笑い、一樹は突然まどかの肩を引き寄せその耳元に顔を近づける。
「──絶対惚れさせてやるから」
低い声でそう囁かれ、彼女の鼓動は大きく跳ねた。
(い、今、何を……)
目を見開き、呼吸さえ忘れたように身動きできないまどかを見下ろし、一樹は満足そうな笑みを浮かべた。
「じゃ、また明日」
そう言い残して去ろうとする一樹に、まどかは尋ねた。
「そういう一樹くんこそ、私のことが好きなんじゃないの?こんなこと、なんとも思ってない人にやることじゃないと思うよ?」
「…暇なんだよ。これは遊び。真剣な、二人だけのね」
一樹は歩みを止めることなくそのまま行ってしまった。
(ほんと、何なの…)