第2章 翻弄
放課後。
上を向くと痛かった首はほとんど良くなっていた。
氷嚢の氷もすっかり溶けて温くなっている。
まどかの肩は重かった。
無論、一樹とのことである。
(フリをするとは言ったけどさ…)
突然好きでもない男子と親しくするのは無理がある。
(なんでわざわざ面倒くさくしちゃうの)
当然、二人の仲はみんなの噂になるだろう。
不本意だ。
(こんなことで有名になんかなりたくないのに)
さくらに相談したかったが、用事があると言って既に帰ってしまっていた。
ため息をついて鞄を肩にかけたとき。
「帰るぞ」
感情のこもっていない声が降ってきた。
「は?!」
見上げると、腕を組んで自分を見下ろす一樹と目が合った。
「……なんでよ」
思わず聞き返した彼女を、
「付き合ってるんだから当然でしょ」
と嘲笑する。
「ほら、置いてくぞ」
「うん……」
背を向け教室を出ていく彼をしぶしぶ追いかける。
もちろん、周囲の視線が集まる。
「え、あの子って彼氏できたの?」
「戸内すげぇな、杉野をゲットしたのか」
「お似合いだね~」
交わされる会話の全部が聞こえるようで、まどかはぎゅっと目を閉じた。
(……なんでこんなことに)
「意外といけるもんだねぇ」
「~~~っ」
校門を出たところで、俯いて彼の後ろを歩いていたまどかは彼の隣に並んだ。
そして、彼女にしては珍しいトーンの低い声で尋ねた。
「一樹くんはこんなことして楽しいの?」
「さあ、どうかな」
返ってきたのは興味なさそうな答え。
「だったら辞めよう、こんなこと」
「受けて立っておいてなに言ってんの」
「だって…」
「自分のプライドが許さない?」
「う……」
ずばり本心を言い当てられる。
なにも言い返せないまどかを見て、一樹は楽しげに目を細めた。