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あたしがオトそうと思ってたのに!

第2章 翻弄


「ただいま」

自宅の玄関を開け、靴を脱いだ。

「おっかえりー」

リビングから声が返ってくる。

「…お姉ちゃん、帰ってきてたの?」

まどかの3つ年上の姉・さやかが、床に寝転びDVDを観ていた。
側にはペットボトルが転がっている。

「ゴミの後始末くらいしてよね」

「んー、ごめーん」

画面から目を離さずに生返事をする姉をよそに、まどかは自分の部屋に引っ込んだ。

まどかは両親と姉と四人暮らし。
彼女が小学生の時から、この3LDKマンションの2階に住んでいる、どこにでもいる平凡な家族だ。

現在、姉のさやかは大学2年生。
バイトをしながら講義を受ける普通の大学生で、付き合って2年目になる年上の彼氏がいるらしい。
両親はどちらも働いており、父がサラリーマンで母がパート社員である。

さやかは遊び気質があるので、この時間に家にいるのは珍しかった。

制服から部屋着に着替え、まどかはキッチンに立つ。
平日は、大抵まどかが夕飯を作るのだ。

「あ、お母さんが冷凍の鶏肉を使ってほしいって言ってた。そこに出してあるから」

「りょーかーい。ありがとう」

程よく解凍した鶏肉を早速仕込み始める。
中学の頃から料理はしてきたので、作れないものはほとんどない。

(今日は唐揚げでいっか…)

あんまり凝ったものを作る気分ではなかった。

(それもこれも全部あの人のせい…)

さっきのあの低い囁きを思い出し、顔が熱くなる。
よくもまあ、あんな台詞を言えるものだ。

(確かに私は誰のことも好きになったことないけど…)

だからって性格の悪いあの男に初恋をするなんて考えたくない。
そもそも彼女が恋をさせる立場だったはずなのに、その日の内に形勢逆転してしまった。

一樹は、あまり人とつるまない。
周囲から常に一歩引いたところにいる。
皮肉屋で、嫌みな言い方も多い(と、今日知った)。
そんな彼が、なぜ自分にこだわるのだろう。
まどかにはそれが理解できない。

(なんだかんだで、やっぱり私のことが気になるんじゃんか)

そうでなければ恋人のフリをしようなどと言わないはずだ。

(絶対に落ちてやらない)

菜箸を握り締めながら、まどかは決心したのだった。

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