第14章 40日目
それから2時間くらいお話しをして
美嘉さんが「今日は無理そうかな、」
と腰を上げて。
「美嘉、さん、あの・・・何か
用があったんですか?二宮くんに」
私を見つめる美嘉さんが
一瞬止まって
優しい顔で微笑んでくれた。
「ううん、何にも。
ただ・・・会いたくなって」
ただ、会いたくなって
それは用があって来たことよりも
ずっとずっと意味が深い
初めて感じる
この胸の奥の何か
「み、かさん」
なぜか怖くて
私の思っていることが本当だったら
名前を呼んでゴクリと息を呑む。
私が口を開く前に
「ちゃん、」と呼ばれ
「和の、どこが好き?」
「え・・・」
「ある?好きなとこ」
「・・・は、はい」
「即答かあ、」と視線を逸らした美嘉さん。
ふふ、と笑った後
もう一度私を見る。
「和、昨日ね言ってたよ。
どこが好きか、わからないって。
私が聞いたら
困った顔して、なんか可哀想だった」
「・・・なんで」
美嘉さんの表情が、
さっきまでと違う、冷めた目で。
「・・・ど、どうしてそんなこと」
「さあ、・・・
私だったらそんな顔、させないのに」
微笑んで背を向けられた時に
揺れた綺麗な黒髪から
バニラのいい香りがして。
パタンと、閉まった扉の音と
残った香りと居ないあの人の顔と
全部が混じって
わけがわからなくって。