第13章 39日目
おしぼりで手を拭くと
美嘉が「何にする?」と聞いてきた。
「ウーロン茶」
「え?飲まないの?」
いつもは決まって
生ビールを注文する俺に
珍しい、と驚いた表情を向ける。
「…まさか、警戒してる?」
と笑う美嘉にため息をついた。
「…あなたねえ、ほんと何がしたいわけ」
「べっつにー、なにも」
「は?」
なにも?
これが何も、に入るかっつうの。
「何すれば許してくれるの」
その言葉に美嘉が笑う。
「なにそれ、別に和のこと
怒ってなんかないよ」
「……」
「…上手くいくわけないじゃん、
私たちにみたいな職種と普通の人が
恋愛なんて、」
それは俺のことを言っているのか
その瞳の奥に何か隠しているのか
「…なに?なんかあったの」
「…和さっき、言ったよね
何すればって」
「うん」
「……じゃあ別れて
じゃないとマスコミにリークする」
「俺を脅してんの?」
「そうね、そうかも。」
「相変わらずひねくれてんな」
「和に言われたくない。
…私、やっぱり和じゃなきゃ「美嘉」
美嘉の言葉を遮る。
「俺、あんな別れ方になって
悪いと思ってる。
でも、美嘉がどうしても
って言うなら俺が芸能界から出るよ」
「………なに、それ
彼女を傷付けないために
自分の場所を捨てるっていうの?」
「別にそんな格好いい話じゃない」
「…何がそんなにいいの、その子」
「…わかんない」
何がいいか、どこがいいか、
なんてわからない。
でもただ、
傍に居たいと思う
傍に居て欲しいと一番に顔が思い浮かぶ
単純に好きだと思う
それだけ。
「…私の時はあっさり別れたのに」
「うん、ごめん」
「……ばか、最低」
「…うん、ごめん」
その日、たった一杯のウーロン茶を
飲んで先に店を出た。