第1章 出会い
格好良くて綺麗な品の良い男の子かと思ったら、赤司くんは結構強引だった。一向に私の手を離してくれない。私はこの異常事態に手汗かきまくってるからすぐさま離して欲しいのだけど。背の低い私に目線を合わせるようにずいっと顔を近付けた赤司くんは、じっと目を見る。逸らすことの許さないその視線に、私はただただ金魚の様に口をパクパク開閉するしかない。このままでは流されてしまう。そんな未来を危惧した瞬間、救いの女神が現れた。
―――ピリリリリリリ
はっと我に返る。着信を告げているのは私のズボンのポケットに入れたままの携帯電話だった。それには赤司くんも気付いたらしく、視線で訴えれば渋々といった様に両手を解放してくれた。やっとの思いで解放された両手に半分涙ぐみながら、相手も確認せずに電話口に出る。なんと、店長だった。どうやら出勤時間を過ぎても現れず、連絡すら寄越さない私を心配してくれたらしい。とにかく平謝りをしながら事情を説明し、今からなら15分程で着くと返して電話を切った。ほっと胸を撫で下ろせば、目の前には不機嫌そうな赤司くん。何故。
「……今の、電話。」
「あ、ごめん。仕事の電話で…。」
「……男性の声が、聞こえました。」
「えっ!?」
「…………。」
盗み聞きをするつもりはなかったのだろう、バツが悪そうに目を逸らしながらも伝える赤司くん。言葉の意味を噛み砕いて理解した瞬間、まさに顔から火が出るかと思った。彼は嫉妬しているのだ。私が男性(店長だけど)と電話で話をした事に。何とか真っ赤になった顔を見られない様に俯きつつ、蚊の鳴く様な声で勤務先の店長だと伝える。みるみるうちに顔を綻ばせていく彼を、不覚にも可愛いと思ってしまった。