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赤い糸

第1章 出会い





感心したようにぽつりと呟かれた言葉に驚いて顔を上げれば、それはそれは綺麗な男の子がいた。今まで痴漢を逃がさない事に神経を使っていた為、同じく捕まえてくれた彼へ意識を向ける余裕が無かった。改めてまじまじと確認すれば、ものすごく格好良い子だ。深みのある赤い髪と瞳に、スラリと伸びた四肢。大学生くらいだろうがとても大人びて見えて、とにかく顔が整っている。何より彼の雰囲気が、その辺のごくごく普通の男の子には思えなかった。一瞬ぽかん、と間抜けな顔を晒してしまったが、急いで取り繕って愛想笑いを浮かべる。

「勇敢なんかじゃ、ないよ。咄嗟に動いちゃっただけ、条件反射みたいな…。」
「それでも、貴女の取った行動は世間一般では称賛されるべきものだ。」
「あはは、そうかもね。でも、あんな風に咄嗟に動けた事に自分が一番驚いてるの。今だって腰抜けそう。」

おどけた様に肩を竦めてそう言えば、男の子もくすくすと笑ってくれた。嘘ではなかった。目立つ事が得意ではないし、人前ではすぐに動揺してしまうチキンハートな私だ。そんな自分が何の躊躇もなく動けた事が、一番信じられない。今でもドキドキと早鐘を打つ鼓動を感じながら、腕時計を見てそう言えばと思い出す。勤務先に連絡をしなければ。しかし、もう一度携帯へと伸ばした手は男の子の言葉によって再び遮られた。

「オレは赤司征十郎といいます。貴女は?」
「えっ?あ、ご丁寧にありがとう。私は中山7めぐみです。」
「中山7、めぐみさん…。」
「?」

自ら名乗ってくれた手前、名乗らないわけにはいかない。告げられた名前に上乗せするように、自分の名前を伝えた。すれば、確認する様に私の名前を紡ぐ男の子―――基、赤司くん。意図が解らず首を傾げて見せれば、コホン、という咳払いの後に彼の目が真っ直ぐ私を射抜いた。その強すぎる視線に内心かなりビビりながら、何かを伝えようとする赤司くんの言葉を待つ。美しい唇から紡がれた言葉は、信じられないものだったけれど。

「どうやら、オレは中山7さんに一目惚れをした様です。」
「………え?」

頭が真っ白になるって、こういう事なんだと生まれて初めて体験した。


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