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赤い糸

第1章 出会い





女子高生の臀部を撫でていた男の右腕を掴んでいるのは、紛れもなく私の腕。そして吊革に掴まる男の左腕を力強く掴んでいるのは、見ず知らずの男の子だった。どうやら、タイミング良く同じ行動を彼と一緒にしてしまったらしい。咄嗟の事にかなり驚いて力を緩めそうになると、痴漢が身を捩って逃げようともがいた。流石に男が本気で暴れられては私にはどうする事も出来ない。
まずい。
瞬時に浮かんだ嫌な予想は、痴漢の左腕を掴んでいた男の子がそのまま腕を捻りあげた事で回避できた。その光景に我に返り、慌てて痴漢の右腕を掴み直す。とりあえず次の駅で降りる事を確認した後、被害にあった女子高生へと声を掛けた。

「もう、大丈夫だからね。」

目にいっぱい涙を溜めた彼女は、それを拭いながら力強く頷いてくれた。その安心した表情を見られただけで、決定した勤務先への遅刻も甘んじて受け止めようと思えた。女子高生を慰めるよう微笑みかけたあと、停車した駅で降りる。被害にあった彼女と、痴漢と、その腕を片方ずつ押さえ付ける私と男の子の四人という構図だった。もう抵抗する気はないのか、大人しく窓口まで連れられる男に息を吐きながら、駅員に引き渡した時には誰よりも自分が安堵しすぎて腰を抜かしてしまいそうだった。

「本当に、ありがとうございましたっ!」

何度も何度も私と男の子へ頭を下げる彼女に、気を付けてね、と一言掛ければ、最後にもう一度深々をお辞儀をして恐らく遅刻するであろう学校への通学路を急いで行った。そこに残されたのは、私と男の子。とりあえず店に電話かな、と携帯を取り出そうとしたところで、隣から声が掛かる。

「随分、勇敢なんですね。」
「えっ?」


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