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赤い糸

第3章 変化





言ってから、拗ねる様にそっぽを向いてしまった赤司くん。確かに私は葉山くんから名前で呼ばれていたけど、まさかそれを言われるとは思わなくてきょとんとする。続く沈黙。赤司くんをそろりと見上げれば、若干頬や耳が赤くて。一瞬で事を理解した私の顔も一気に火照り、何を言えば良いか分からず、聞かれたことにだけ答える事にした。

「…名前で呼んでいいかって聞かれたから、いいよって言ったんだけど…。」
「ダメだ。」
「えっ?」

「オレ以外の男があなたを名前で呼ぶのなんか、許さない。」

だいたい、オレだってまだ苗字で呼んでいるのに。葉山は明日の練習メニューを3倍にしてやる。ブツブツと呟く赤司くんの言葉は、途中で拾う事が出来なくなった。剥き出しの嫉妬心が嬉しくて、恥ずかしくて、照れ臭くて、思わず俯く。

「…めぐみさん。」
「は、はいっ!」

そのまま居た堪れなくなっていると、赤司くんは何でもないように私の名前を紡ぐ。ありきたりな自分の名前が特別なもののように感じて、思わず過剰に反応してしまった。恥ずかしさに顔を真っ赤にする私を満足げに見て、赤司くんは言う。今度は私の番だ、と。つまり、赤司くんを名前で呼べ、という事なのだろう。

「う…。」
「早く。」
「い、今?」
「今。」
「どうしても…?」
「どうしても。」
「………。」
「めぐみさん。」

「……征十郎くん。」

流石に顔を見て目を合わせて言う事は出来なかったけれど、それでもちゃんと聞こえたはずだ。震える声で彼の名前を呼べば、そっと口元を覆ったのが分かった。そして小さく「うん…悪くないね」と呟いて、俯いている私の顔をそっと包み、優しく唇を合わせる。二度目のキスは一瞬なのにとても甘くて、優しくて、蕩けてしまいそうなほど温かく感じられた。



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