第1章 出会い
いつもと同じ、勤務先までの通勤電車内。ラッシュの時間と重なった車内はなかなかの人口密度だった。ぎゅうぎゅうに押し込められた車内を流されるままに右へ左へとフラつき、やっとの思いで扉側の柱に掴まる事ができた時には既に朝からボロボロだった。降車駅まではあと20分程度。毎日の事だが我慢をするしかない。溜息を一つ吐き鞄を持ち直したところで、ふと斜め前の女子高生が目に付いた。
今時の女の子、といった雰囲気の彼女。程よく短いスカートから覗く生足に若さを感じ、内心苦笑いを隠せない。もともとスカートを穿くような女子力は持ち合わせていないが、世間一般では自分もまだ若い方に分類されるはずだ。いつの間にか老けていく思考に辟易していたが、目に入った光景に全てが吹っ飛んだ。
(…っ痴漢!?)
よくよく見れば女子高生の顔色はあまりよろしくなく、電車の揺れとは思えないほど不自然な動きをしている。その後ろを見やれば、メガネをかけた中年のサラリーマンらしき男性が食い入るように彼女を見つめていた。左腕は吊革に。そして、右腕は、彼女の臀部に。咄嗟に驚き過ぎて目を見開き凝視していると、確かに男の腕が厭らしく彼女の臀部を行き来するのを確認してしまった。どんどん目に涙を溜めて、堪える様に俯く彼女。その姿を目にした瞬間、恐怖や躊躇などは一切考えてられなかった。
「「痴漢です!」」
人混みを縫うように潜り抜け、決死の思いで男の腕をわし掴む。ビックリした後に逃げようとする男へトドメのように張り上げた声は、何故か二重に重なっていた。