第3章 変化
「っん…!」
キスをされたと気付いたのは、数拍置いてから。合わさった唇から逃れようと身を捩るけれど許されるわけもなく、息苦しさにぎゅっと目を瞑った。異性とのキスなんて殆どゼロに近い私に息継ぎをするなんて高度な技術があるわけもなく、ふと離された拍子に一気に息を吸い込めば、空気と共にぬるりとした生温かいものも一緒に入り込んできた。
「んんっ!…っふ、ん…!」
「…はぁ、中山7さん…ん…。」
それが赤司くんの舌だと理解する前に、荒々しく口内を舐めて吸われてなぞられる。奥に縮こまった舌を引っ張り出され、絡ませられる。訳が分からずに固まる私に口付けながら、切なげに囁かれた自分の名前。赤司くんの吐息と私の吐息が混ざり合って、密室の熱の濃度を上げていく。漸く解放された頃には、自分の足で立っていられずに赤司くんが私を支えてくれていた。エレベーターが到着したのは最上階。扉が開くと同時に離された口付けの余韻に浸る間もなく、赤司くんは私を抱き上げる。
「やっ!降ろして!」
「…………。」
そのまま無言で扉を開けて、真っ暗な部屋に押し込まれる。無情にも落とされる錠の音が、もう私に逃げ場はないと告げている様だった。