第3章 変化
歩く事10分程、そろそろ沈黙が痛くなってきた頃に、赤司くんは高級マンションのエレベーター前で立ち止まった。息を切らして必死に呼吸を整える私を押し込む様に、エレベーターへと入る。幸いにも誰も同乗者は居なかったが、私は瞬時に此処が赤司くんの住むマンションだと理解する。エレベーターが辿り着くのは、赤司くんの住む階だろう。そして、そのまま部屋に連れ込まれるのだろう。まさか突然家に連れて行かれるとは思っていなかったので、一瞬で理解した後はすぐ行動すべく彼を見上げた。
「離して。」
「断る。」
「どうしてこんなことするの。私は帰ります。」
「…一方的にあんなメッセージを送られて、オレが納得するとでも思いますか。」
「っ、帰る!」
鋭い口調で言われてしまえば、その通りの事をしでかしたため何も言えない。無情にもエレベーターの扉は絞められてしまったので、一番手近な階のボタンを押すべく彼から距離を取ろうとした。エレベーターが停まって降りられさえすれば、あとは階段でも使って下には降りられる。赤司くんの手を振りほどこうと渾身の力で暴れれば、抑え込む様にして抱き締められた。
抱き締められ、そのまま横の壁に抑え付けられる。ピクリとも動かせない自分の身体に力の差を見せつけられ、睨むように赤司くんを見れば彼も睨む様に怒りのこもった瞳で私を見下ろしていた。
「葉山にあんなに触られて、連絡先まで交換して、何をしてるんです。」
「っ赤司くんには、関係ない!」
「…ええ、そうでしょうね。あなたから一方的に別れを告げられたオレなんて、関係ないでしょうね。」
「!」
「でも、逃がさない。」
一瞬、身体から力が抜ける。赤司くんの顔が悲しげに歪められた気がして、辛そうに私を見つめていた気がして。でももう一度瞬きをして彼を見ようとすれば、強い口調と共にその端正な顔は目の前にあった。