第4章 言いたくて、言えなくて
「そういやさ、家に杏子ちゃん呼ばんの?」
口にしてから気がついた。この子にいろいろ暇が無いよう習い事させているのは私だ。
成海はちらっと私を見てから晩御飯であるハンバーグを口に含んだ。そして言った。
「そりゃ呼んでいいなら呼ぶけど休ませてくれる訳じゃないやん?それに三月で引っ越すんやし家呼ぶどころかデートすらする暇ないわ」
正論だ。だからこそ何も言う言葉が見つからなかった。
「…食べながら話すなよ」
本当にそれしか言えなかった。申し訳ない気持ちと、息子が杏子ちゃんとデート出来ないということにどこか喜びを感じていたのだ。