第1章 桜ソング【宮地 清志】
みんなの生き生きとした表情はいつ見てもかっこいい。
そしてやっぱり、
私の目は自然と宮地先輩に惹きつけられていた。
何よりも当たり前で変わりなく、
それでいて輝いていたバスケ漬けの日々。
この練習風景がどんな思い出よりも胸に響いた。
いよいよ、ほんとに最後なんだという実感が
じわじわと心を侵食して、泣きそうになるのを必死でこらえた。
「おい、どうした?大丈夫か?」
一瞬俯いて唇を噛み締めていただけなのに、
やっぱり先輩は気付いちゃうなんて。
「何でもないです。すいません、ちょっとトイレ行ってきます」
今にも涙が溢れそうで、途端に走って飛び出してた。
うまく笑えてた?
気づかれてない?
変じゃなかった?
泣いちゃだめ、絶対笑顔で送るって決めたんだから。
何も考えずに、走って、走って。
無意識のうちに宮地先輩の教室に来ていた。
黒板には、あるだけのチョークで大きく彩られた“卒業おめでとう”のカラフルな文字と、それを囲むようにして書かれた卒業生のひとこと。
宮地先輩の文字を探して、見慣れたそれにそっと触れる。
後ろを振り返り、宮地先輩の席を捉えた。
窓側の一番後ろ。
マネージャーとして業務連絡でたまに訪れたこの教室。
暖かい陽が差す昼休みには大きな背を丸めて
気持ちよさそうに眠っていたこともあった。
起こしちゃ悪いかな、なんて遠慮していると
「あ、宮地のお気に入りちゃんじゃん。
起こしてやるからちょっと待ってな」
なんてクラスメイトがばしばしと肩や背中を叩いて
ゲラゲラ笑いながら起こして、それに宮地先輩がキレて、
いつもより少し目つきの悪い顔でドアの方まできてくれたっけ。
机のあいだをゆっくりと通り抜け、先輩の机に手を置いた。
最後だからいいかと宮地先輩の席に座ってみる。
頭に浮かぶのは先輩の顔ばかり。
笑顔を作ろうと顔の筋肉を動かすけれど、
それに反して目から零れるのは悲しい色。
ねえ、宮地先輩。
あの時、友だちが言っていたお気に入りってどういう意味ですか?
可愛いただの後輩ですか?
そんな質問、できるわけなくて。