第1章 桜ソング【宮地 清志】
「写真撮りましょーよ!」
ぼーっと考えていると、高尾の元気な声で現実に引き戻された。
「あ、私カメラあるんで撮りますね!」
高尾の提案に一箇所にかたまりだしたレギュラーメンバー。
慌てて制服のポケットからデジカメを取り出し、
みんなと反対側に立とうとしたときだった。
「何言ってんだ。お前もこっちだろ」
その言葉と同時に腕を掴まれ宮地先輩の隣に引き寄せられる。
いつも通りの何てことないその優しさが
今は胸に突き刺さって、いたかった。
隣に輪を作っていた中の一人にお願いして撮った集合写真。
私は宮地先輩の隣でちゃんと笑えていただろうか。
「じゃあ行くぞー!」
「よっしゃあぁ!」
大坪先輩が号令をかけると、待ってましたと言わんばかりに散り散りになっていた他の部員も集まった。
秀徳高校運動部のもう一つの恒例行事。
それは最後に体育館で部活をすること。
今年は運良くバスケ部が使用できることになった。
ユニフォームに着替えてちゃんとするって訳じゃないけれど、コートを同じくすることに意味があって。
堅苦しい制服の学ランを脱ぎ捨て、上まできっちり留められたYシャツのボタンを外す男たち。
マネの私の目なんておかまいなしに、
上だけいつもの部活Tシャツに着替えていく。
それはもう見慣れたものだったけど、それでも、Tシャツの袖から剥き出しになる逞しい腕にどきりとした。
一度だけ抱きしめられたあの日を思い出してしまって、心臓がうるさい。
そんな心に気付かないふりをして、審判を任された私はいつものようにスコアボードを捲っていく。