第1章 桜ソング【宮地 清志】
仕事もだんだん覚えてきて、
メンバーに気を配れるようになった頃だった。
「やっぱお前いると全然違ぇわ。
まじで来てくれて良かった。ありがとな」
ドリンクを渡した私にそう言って頭にぽんと手を置いた宮地先輩。
手はすぐに離れたけれど頭にいつまでも違和感が残っていて、とくん……と胸が鳴った、気がした。
何事もないようにふいっと練習に戻る宮地先輩の背中から目が離せなかったし、顔が火照ったように熱かった。
とある部活終わり、レギュラーメンバー5人と歩く帰り道。
それぞれが別の方向へ散るいつもの十字路まで来て、
お疲れ様でしたと口を開こうとした時のこと。
「お前家どこ?」
「?……あっちですけど……?」
唐突に尋ねられて、不思議に思いながらも答える。
「んじゃ行くか」
そう言うと、何を思ったのか
私が指さした方向へと足を向ける宮地先輩。
なにがなんだか分からなくて、
歩きだそうとしている先輩のエナメルバッグを咄嗟に引いた。
「え、え?!宮地先輩のお家真逆ですよね!?お気持ちはとても嬉しいですけど、あの、その、ひとりで帰れますっ」
「うるせぇ黙って送られろ埋めんぞ」
必死に言葉を紡ぐ私など気にしない様子で進もうとする宮地先輩。
助けを求めるように大坪先輩たちに視線を送ったけれど、笑いながらこっちを見ているだけだった。
「宮地サーン、送り狼になっちゃだめっすよー?」
「黙れ高尾刺すぞ」
「さっさと帰るのだよ高尾っ!」
「いやん♡宮地サンも真ちゃんも冷たい!!
オレ泣いちゃう〜……っていたいっ!」
裏声で言った高尾の背中に膝蹴りをいれた宮地先輩。
それにみんなで笑ってから、
軽く手を挙げて挨拶をしてそれぞれ帰路についた。
その背中にお疲れ様でしたと声をかけてから、
先を歩く宮地先輩のあとを追いかける。
置いてくぞ、なんてこぼしながらも私の歩く早さを考えて
ゆっくりと足を進める宮地先輩。
それからは毎日家の前まで送ってもらった。
先輩は後輩思いだから、私が部活の後輩だから、
やってくれていただけ。
でもそれが 私にだけ向けられていればいいのに、
なんて醜い感情になったのはいつからだろう。
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