第1章 桜ソング【宮地 清志】
宮地先輩がうるせぇ轢くぞって爆笑している高尾に怒って、
緑間くんは顔を赤くしてメガネをカチャカチャいじって、
それを微笑ましそうに見る大坪先輩と、
豪快に笑う木村先輩がいて。
思い出されるのはこれまでの部活の練習風景。
……こうやって笑うのも、これが最後…………。
私がぼんやりと考えているあいだに笑いが収まったのか、真剣な表情で木村先輩に向き直って、ありがとうございましたと色紙と花束を手渡した高尾。
照れくさそうにしながら受け取る木村先輩の目には、
うっすら涙が滲んでいた。
私も渡さなくちゃ、そう思っていると、宮地先輩と目が合った。
「俺にはお前がくれんの?」
「知佳ちゃんがどうしても宮地サンに渡したいって
言ったんすよ〜」
「うるさい高尾っ!」
茶化すように言った高尾をバシンと叩いて、
深呼吸してから宮地先輩に一歩近づく。
「……い、今まで、本当にありがとうございましたっ」
ばっと頭を下げて花束と色紙を差し出す。
私の手からそれらが離れていくのを感じて、ゆっくり顔をあげた。
「……サンキュな」
そう笑って、わたしの頭に手を置いた宮地先輩に、
私は何も言えなかった。
ずるい。
そうやって笑って、そうやって優しくして。
先輩にとっては何気ない行動なのかもしれないけど、
そのひとつひとつが私の心を揺さぶるんだ。