第4章 祝福する【高尾 和成】
それから、10年。
和成の周りには、
前世の記憶を持つ人たちが溢れていた。
その皆が皆、私のことを知っていたし、
覚えていてくれて、様々な反応を見せてくれた。
清志兄さんは相変わらず生意気な面だってほっぺを引っ張ってきたし、信介兄さんはお前チビになったなぁってからかってきた。泰介兄さんはあの頃みたいに笑って、また会えて良かったって頭を撫でてくれた。
あのころ近所に住んでいた兄さん達には前世の記憶がしっかりとあるのに。
それなのに、和成だけは私を思い出さないままだった。
だから、和成の恋路をことごとく邪魔してやった。
こういうとき小学生は便利で、無邪気に笑って近づけば、どんな我儘も邪魔も大抵は許された。
さらに、和成が子供好きなのが
破局の成功率を上げた要因だった。
中学からは家庭教師をしてもらったし、
家族間の付き合いも大事にした。
和成の性格に付け込んで我儘もしたが、
一つ一つ好感度を積み上げて、良い子を演じた。
(清志兄さんや信介兄さんには腹黒いと称されたが気にしてはいない)
それでも、やっぱり、私の知らない時間が増えた。
それが置いて行かれたようで寂しくて、
いい加減気付いてくれない苛立ちに泣きたくて、
それをどうにかしたくて、叫び喚きたくて、
……私の心は、行き場の無い衝動に崩壊寸前だった。
「知佳!」
そんな時だった。
「何?和にぃ」
「俺、結婚することになった」
「へ、へぇ……。相手はどんな人なの?」
「ほんわかして可愛い子!それに、この前たまたま占い屋で占ったら前世の恋人だったみたいでさ……」
照れたように頬をかきながら幸せそうに語り続ける彼に、私は茫然自失だった。
誰が前世の恋人だって?
和成の前世の恋人は私だ。
否定したいのに、言葉を忘れたみたいに、
へぇ、とか、そう、しか言えなかった。