第2章 さよならも言えずに【火神 大我】
一時間目の数学は、やけに静かだった。
シャーペンとノートが擦れ合う音と、
チョークが黒板を滑る音。
それから時計の秒針が規則的にオレの耳に流れていた。
ぼんやりしながらも、他のクラスメイトにならって
教科書とノートを机の上に広げてみる。
けれど勉強する気にはなれなくて、
机に伏せたままあいつの机を眺めた。
いつもなら、
授業に退屈して机に伏せているオレの頭を小突いて
意味不明な落書きを見せてくるあいつがいて。
それに吹き出して笑って2人で先生に怒られて
黒子には呆れられて。
いつだったっけ、
2人で廊下を雑巾がけさせられたこともあったな。
その後はジャンケンでどっちがジュースおごるか決めて、
オレが負けて、どさくさに紛れて現れた黒子の分まで
おごる羽目になったんだっけ。
そっか、あいつ、もういねぇんだ。