第2章 さよならも言えずに【火神 大我】
まだ冬休み気分がぬけない新学期初日。
オレの隣の席には、
いつもいるはずの“あいつ”の姿がなかった。
どうせ寝坊か遅刻だろう。
宿題を最終日まで残して徹夜でやったせいで寝坊したに違いない。
その様子が容易に想像できて、小さく笑った。
机に伏せてぼんやり窓の外を眺めながら朝のHRを受ける。
「ーーーーー残念なお知らせがあります」
担任の沈んだ声。
ざわめくクラスメイト。
「なに?なんかのテストの平均が悪かったとか?」
「げ。それで補習があるとか?」
「休日が潰れるのはマジ勘弁なんだけど」
「あれかな、3組の不良がやらかしたとか?」
「あー、なんか噂してたね」
「それより元テニス部の不登校の子じゃない?」
「マジ!?それ知らなかった」
「静かにしなさい!」
いつもなら軽く注意する程度で済まされることなのに、
やけに真剣な担任の声音に、私語が一切聞こえなくなった。
このままじゃまずいかと、
オレも体を起こして話を聞く体勢に入る。
「…………このクラスの鈴木知佳さんが、
三日前に亡くなられたそうです」
耳が痛くなるほどの静寂。
誰もが体の動きを止めた。
いや、動けなかった。
車の音も、
他のクラスの声も、
時計の秒針の音も、
何も聞こえなかった。
世界からこの教室だけ切り離されたみたいだった。