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Orange【黒子のバスケ/短編集】

第1章 桜ソング【宮地 清志】


「本音は?」


まっすぐ目を見て問いかけると、口を開いて出かかった声をまた引っ込めて、口を閉ざして俯いた。


「聞かせろよ」


こいつと同じ目線になるようにしゃがんで
頬を離さないまま真正面から見つめると、
迷いの色を浮かべた瞳がまた揺れて、
おそるおそる口が開き、目線を俺から少しずらして語った。


「………頑張ってる宮地先輩の気持ちを乱すようなことはしたくなくて。宮地先輩優しいから、きっと気を遣わせちゃうって思って。
部活に支障が出るのは嫌だったから自分の気持ちに気付かない振りしてたんだと思います。………でも、」


躊躇いをなくした吸い込まれそうな瞳が真っ直ぐ俺を見つめ返した。


「でもっ…本当は離れたくないですっ!
私も、……私も、宮地先輩が好きで……んっ」


たまんなかった。

それは一瞬触れただけですぐ離れたけれど、
確かに触れた唇。

目を見開いて固まる身体を引き寄せ強く強く抱きしめた。


「バスケしてる俺だけ?」


腕の力を強めて囁くように聞く。


「ちが…、ぅ」


細い腕が俺の背に回され聞こえてきたのは、
「行かないで…」という絞り出したような声。

ああ、これがこいつの本音だ。


「どこにも行かねぇよ」


ぎゅうっと抱きしめていた腕を緩めて、ボロボロとこぼれる涙を親指で拭ってやるけど全然止まらない。


みやじせんぱい、すき、すきです、せんぱいがすき、
何かのストッパーが外れたように、俺に縋るように、
何度も言葉を紡ぐ姿に胸がギュッと締め付けられる。


「いつもの顔見せて。笑って」


あの向日葵みたいなあったかい笑顔で笑って。
あれ見ないと卒業できねぇよ。




はっとした様子で自分の腕でごしごし拭って、

咲いた大輪。



「宮地先輩、卒業おめでとうございます」



眩しいほどに、きれいだった。






初めて、手を繋いだ。

ちっさくてあったかいその手を離さずに戻った体育館には、すでに3試合目を終えて汗まみれのメンバーが待っていた。

お前らやっとくっついたのかよ、と呆れながらも俺たちを迎え再開される最後の一試合は、最高に気持ちよかった。

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