第1章 桜ソング【宮地 清志】
知佳side
初めて、手を繋いで歩く帰り道。
秀徳高校の制服を着た宮地先輩との最初で最後のデート。
でも、もう悲しくない。
「あ、そだ」
ひとつもかけていない綺麗に並んだ学ランのボタンから、二つ目を外して私に差し出す宮地先輩。
「ん。やるよ」
定番の第二ボタンってやつだ。
先輩のことだから、すべてのボタンがなくなっているんだとばかり思っていた。
「宮地先輩、案外モテないんですか?」
「うっせ。お前のためにとっといたんだっつの。
いらねぇならいいけど」
言わないけど、きっとたくさんの女の子に詰め寄られたはず。
そういうところも、好き。
照れ臭そうにしている宮地先輩は可愛くて、
こんな顔もするんだなぁとまた新たな一面を知る。
すごくすごく嬉しい……けれど。
「いらないです」
あっさり断った私に、マジでいらねぇのかよ、
としょんぼり肩を落とした彼。
「宮地先輩、耳貸してください」
でも、もっと大事なものをもらったから。
腰を折り曲げて顔を寄せてくれた彼の耳に囁いた。
『…………………………』
「ったく…可愛いこと言うのもいい加減にしろよ。
……もう逃げても離してやんねーからな」
握った手が恋人繋ぎに変わったら、
もう離れない、離さない。
商店街に流れる桜ソングがなんだか心地よくて
サビしか知らないその歌を鼻歌交じりで口ずさんだ。
『宮地先輩っていう大事な人、
もう全部が、私のものですから。
これ以上望んだらばちが当たっちゃいます』
END