第1章 桜ソング【宮地 清志】
お互い言葉を交わさず、泣き止むまでそうしていた。
呼吸が落ち着く頃、小さな声でポツリと彼女が呟いた。
「今日は笑顔でって決めてたんです」
もう、声は震えていなかった。
「ちゃんと見てた。無理してるのも分かってた」
「…………先輩、寂しいです」
それがお前の本音か。
でも、それじゃ足りない。
「3年の卒業が?それとも俺と離れるのが?」
「…ず、ずるいです…そんな聞き方……」
狡くても、寂しいなんて言われたら聞きたかった。
もう、今しかないんだ。
逃したら二度と聞けない気がした。
もうひとつ奥のお前の声が聞きたいと思う俺は欲張りだろうか?
「いっこ聞きたいことあんだ」
もらった色紙に書いてあったお前からのメッセージ。
「寄せ書きの言葉。どういう意味?」
「……そのまんまです。」
“バスケをしてる宮地先輩、大好きでした”
そう一言、線の細い綺麗な字で綴ってあった。
「大坪と木村にも書いたの?」
勢いよく首を横に振ったこいつを見て、
ほっとしている自分をもう誤魔化せない。
「な、顔見てい?」
こんなぐちゃぐちゃな顔見せれないと
さらに腹に顔を押し付けられたけど、
両手で頬を挟んで無理やりこっちを向かせた。
俺と目が合うと、止まっていた涙をまた目にいっぱい溜めていた。
伝えたい。
抱きしめたい、思い切り。
俺のものにしたいと思ってしまった。
「俺さ、お前のこと好きだったんだよ」
大きな瞳が動揺に揺れて、見開かれた瞳から流れる一筋。
「過去形…ですか」
「いや、…」
閉じ込めてきた俺の気持ち。
このまま気付かないふりをして、
こいつからも卒業しようと思っていた。
「……諦めるとか無理だったわ。今も、好きだ」
「………」
「お前の気持ちが聞きたい」
「……先輩にはこれから新しい生活が待ってるんです。
私がそれを止めるのは、嫌なんです」
なんだよ、それ。