第1章 桜ソング【宮地 清志】
宮地side
校庭で迎えてくれた時から
あいつの異変はなんとなく感じ取っていた。
いつもより口数が少ないし、いつもの溌剌とした笑顔じゃない。
でも、どうした?なんて聞けるわけなかった。
理由なんて分かっていたから。
聞いたところで変わる事実はないのだから。
……俺はこの学校を去るんだ。
もう傍にはいてやれないんだ。
だから、気づいていないふりをした。
体育館で最後のバスケをしている最中。
スコアボードを捲る手を止めて走って行ったあいつを見たら、脚が勝手に動いていた。
「わりぃ、抜けるわ」
大坪にそう告げると、行ってこい、と背中を叩かれた。
純粋で一生懸命で、マネージャーの仕事も
すぐ熟せるようになっていった。
でもそれは努力の結果で。
それでもまだ足りない、もっとみんなのことを知りたい、バスケが知りたいって思う貪欲さもある。
自分を追い詰めてそれを溜め込む癖もあって、
そんなあいつが放っとけなくて、可愛かった。
“可愛い後輩”ってだけじゃないと思う。
それだけならこんなに胸がざわついたりしない。
そんなの分かってたんだ。
俺は誰とでもそれなりに親しくなれるほうだけど、
無闇にパーソナルスペースに踏み込まれるのは好きじゃない。
けれど、あいつにあの笑顔を向けられるとつい気が緩む。
俺はいつからかそんなあいつに惹かれてたんだ。
それでも、最近やっと余裕が出てきたのか、忙しく仕事をこなしながらも楽しそうにしている姿を見て、一方的な気持ちを押し付けてぎくしゃくしたくないと思った。
うだうだして男らしくない、
なんて言われてしまえばそれまでなのかもしれない。
でも、あいつにはまだこれからあと2年もここで過ごすんだ。
もうよそ者になる俺が縛ることなんて出来ない。
真っ直ぐ向かったのは俺が一年間過ごした教室。
なんでか分からないけどここにいる気がした。
いや、いてくれたらいいのにっていう願望が8割。
あいつのことだから、また一人で泣いてる気がした。